「わたしとHIV in 福岡」
vol.6「『いないこと』にされないために」by タダアキ
「HIV陽性者として何を伝えたいか」と聞かれると、少し困ります。僕はHIVの話だけをして生きてきたわけでもないし、これからもそうだからです。
今は治療によってウイルス量が検出限界未満に維持されていれば、性行為でHIVを感染させることはありません。これがU=Uです。
僕はコロナ禍やSDGsの広がりによって、感染症への理解や多様性への認識はもっと進むと思っていました。そうならなかったことは今でも強く悔やまれます。ただ、それも一つの学びでした。正しい情報があっても、人は慣れ親しんだ思い込みを簡単には手放せないのだと。
僕がHIVをカムアウトしたとき、正直「そうなんだ」くらいの反応を想像していました。意外と薄いリアクションも多いかなと。でも、予想以上の反響があり、強いストレスも感じました。
それでも、周囲との関係性や支えに救われたことは確かです。僕はそれ以前にゲイであることをカムアウトしていて、理解してくれる人たちとの関係を築いていました。この下地があったことは、非常に大きかったと思います。
HIV陽性とわかって初めて、自分のことを誰にどう伝えるかという問題に直面する人もいます。病気そのものへの不安に加え、カムアウトの重圧まで突然背負うことになる。僕には、そこに一つクッションがあったのだと思います。
だから、ゲイであることについては、無理のない範囲で少しずつ伝え、安心して頼れる関係や環境を整えておくことも大切だと思っています。一方で、HIVのカムアウトは、人に勧めてきませんでした。それほど社会の反応には大きな違いがあると感じたからです。
実際、ウイルス量が検出限界未満でも、出会い系で募集しただけで知らない人から非難されたことがあります。僕は一人ひとりに説教し返すくらいの元気がありましたが(笑)、誰もがそんな強さを持つ必要はありません。
社会の理解が未熟な分、カムアウトの反響は大きく、思わぬところまで波及します。でも僕の場合は、すでにある関係性のおかげで、支えを得たり、助けを求めたりすることもできました。誰もがそうできるわけではないからこそ、孤立させない環境が大切なのだと思います。
以前、レインボーパレードくまもとや九州レインボープライドで活動に関わったのも、誰かを特別扱いしてほしかったからではありません。そこに普通に暮らす人が、ちゃんと見えるようになればいいと思っていたからです。
声を上げる人が偉いわけでも、黙っている人が後ろ向きなわけでもない。誰に何を伝えるかは本人が決めることです。
HIV陽性者だって、笑い、働き、恋をして、ときには失敗もする普通の人間です。美談にも悲劇にもせず、ただ事実を知り、勝手に線を引かないでほしい。
誰かを「いないこと」にしない。それはHIVだけの話ではないと思っています。
タダアキ:HIV陽性者・40代・男性・ゲイ・ホテル勤務